ACTをもっと知りたい方へ


アクセプタンス&コミットメントセラピー(略称ACT)とは何でしょうか?


ACTのおもな特徴

 

 ACTは1990年代に米国のネバダ大学の心理学科教授のスティーブン・C・ヘイズたちが発表した新しいタイプの認知行動療法です。その「価値に基づいてマインドフルに生きる生き方」は、西欧的であると同時に東洋的でもあり、とても魅力的です。

そのおもな特徴は以下の通りです。

  • 第一の特徴は、メタファーや呼吸法やマインドフルネス瞑想を使って「今、ここ」で起こっていることに集中する練習をすることです。そうすることで過去に起こった辛い出来事や、これから起こるかもしれない不安な気持ちから受ける悪影響を少し和らげることができます。そして、少しずつこころの余裕が生まれてきます。
  • 第二の特徴は、そうしてこころの余裕が少し生まれたら、今度は「わたしが人生でほんとうに大切にしたいことは何だろうか?」や「人生で自分がほんとうにやりたいことは何だろうか?」を一緒に考えます。そしてその「大切なこと」や「やりたいこと」(それを価値と呼びます)が導く方向にむけて小さな一歩を踏み出すようにします。
  • 第三の特徴は、ご自身の価値に導かれた方向に少しづつ歩き出すことができるようになれば、不思議なことにうつや不安などのつらい症状は少しづつ軽くなっていくことです。

つまり、ACTでは、クライアントが「今、ここ」に集中できるよう、そして生まれたこころの余裕を「価値」ある行動に振り向けられるように支援していきます。少しユニークな心理療法です。

 

ACTのヘキサフレックス

 

右図は、ACTのヘキサフレックスとよばれるもので、6つのコア・プロセスからなるACTの全体像を示しています。

 

1.今、この瞬間への柔軟な気づき  

こころが今、この瞬間にあること、今起きていることすべてに意識を向けて、関りを持つことを学びます。

 

2.アクセプタンス 

過去の辛かったことや、これから起こることへの不安な気持ちにこころを開き、受け入れるスペースをつくります。闘ったり、反抗したり、逃げ出したり、圧倒されたりするのではなく、受け入れてそこに置いておきます。

 

3.脱フュージョン 

自分の考え(思考)や感情や記憶を、少し距離を置いて静かに観察することを学びます。一歩下がって観察できるようになると、自分のつらい思考などに囚われたり、振り回されることが減り、より今に意識を向けられるようになります。

 

4.文脈としての自己 

自己には大まかに言って3つの次元があります。1つは、考えている自分、次に、考えている自分を観察している自分、最後は、自己という存在から離れた、文脈の中にいる自分です。この辺はなかなか説明が難しいのですが、簡単に言うと、自分とか他人とかという区別のない空間に居る「わたし」です。

 

5.価値 

「青い空のカウンセリング」のページでもご説明した通り、ACTでは価値に導かれてマインドフルな人生を生きていくことを目指します。自分の価値をはっきりさせることは、人生を有意義にするうえで欠かせない手順であると考えます。

価値には5つの特徴があります。 

  • 価値は自由に選択できます。
  • 価値はいつもあなたと共に「いま」にあり、ゴール(目標)は未来にあります。
  • 価値には方向性があり、それに基づいて方向を見定め、前進することができます。
  • 価値という堅固な土台があると知ることで、心の安定と勇気がもたらされます。
  • 心の柔軟性を失わないために、価値は「軽く」持っている感じがベストです。 

 6.コミットされた行動 

コミットされた行動とは、自身の価値に導かれながら、その実現に近づいていくのに効果的な行動をとることです。価値に沿った行動を習慣化するために、さまざまな工夫を考えます。

 

心理的柔軟性 

 

上記の6つのプロセスは、個々に独立した別つ別のものではなく、一つのまとまりをもった全体です。各プロセスが形作るのが「心理的柔軟性」という立方体で、 イメージとしては6面体のダイアモンドです。心理的な柔軟性を高めることが、心理療法としてのACTの最重要課題ということができます。


価値を確かめる

 

以下はあなたのこころの奥底にある「願い」についての問いかけです。よかったら、心に響く質問をいくつか選んで考えてみてください。頭を使って考えるというよりは、「ハート&ソウル(心と魂)」を発揮して思い浮かんでくるものをキャッチするようにしましょう。

 

  ☆ あなたは、ご自分の人生にどうあってほしいですか?
  ☆ 人生で、あなたがほんとうに大切にしたいことは何でしょうか?
  ☆ 人生で、あなたがほんとうにやりたいことは何でしょうか?
  ☆ あなたにとって、自分らしさとは、自分らしく生きるとはどういうことでしょうか?

 

いかがでしたか?何か気づいたものがありましたか?  

 

マインドフルネス

 

マインドフルネスとは、柔軟に、オープンに、そして好奇心を持って何かに注意を向けることです。

 

ACTでは、柔軟に、オープンに、そして好奇心を持って自分の心の働き(思考や感情や記憶が浮かび上がってくること)に注意を向ける練習、すなわちマインドフルネスの練習をします。その際にに、もっともよく使われるのが「呼吸による瞑想」という方法です。(呼吸と瞑想についてはこちらもご覧ください)

 

リラックスして、うっすら目を閉じて、ゆっくり繰り返される自身の呼吸に注意を向けていると、思考や感情や記憶といった心の動きが、意識しなくとも自然に浮かび上がっては消え、浮かび上がっては消えしていくのが分かります。そうした無意識の心に働きに注意を向けることをマインドフルネスと、心の働きを観察している自分のことを「観察する自己(または文脈としての自己)」と、そしてその観察するスキルのことをメタ認知のスキルと各々呼びます。

 

なぜこんな練習をするのかといいますと、それは浮かび上がってくる思考や感情にいちいち振り回されたり、支配されたりしていると、自身の価値に基づく行動をとれなくなってしまうからです。 

 

マインドフルネス瞑想を精神世界の手法だ、として敬遠される方がいらっしゃいます。それはとても自然なことです。しかし、瞑想にストレスや痛みを軽減する効果があることは完全に実証されています。(ジョン・カバットジン著「マインドフルネスストレス低減法」などご参照)

また、近年の脳神経科学や神経生理学の研究によれは、マインドフルネス瞑想は、単に脳(こころ)をリラックスさせるだけではなく、脳の機能を改善する機能もあることが明らかになっています。脳機能については、ソマティック・アプローチこちらもご覧ください。  

 


ACTについてもっと勉強したいという方には以下がおすすめです。

「よくわかるACT」、ラス・ハリス著、武藤 崇監訳、星和書店

② 「アクセプタンス&コミットメント・セラピー第2版」、スティーブン・ヘイズ他著、武藤 崇他監訳、星和書店 

③ 「新世代の認知行動療法」、熊野宏昭著、日本評論社
④ 「ACTハンドブック」、武藤 崇編著、星和書店
⑤ 「関係フレーム理論(RFT)をまなぶ」、ニコラス・トールネケ著、武藤 崇、熊野宏昭監訳、星和書店

⑥ 「マインドフルにいきいき働くためのトレーニングマニュアル、職場のためのACT」、ポール・E・フラックスマン他著、武藤 崇監訳、星和書店

⑦ 「マインドフルネスストレス低減法」、ジョン・カバットジン著、春木 豊訳、北大路書房