成人期後期の発達課題

残された人生の期間、個人差がおおきく反映される時期


成人期後期とは65歳以上の残された人生の期間をいいます。

 

成人期後期の特長

成人期後期は体力的な衰えを明確に意識し限界を感じ始める時期です。

 

同時に、これまで仕事や子育に一生懸命忙しく生きてきた人達がそれらの社会的な役割を終えて、解放される時期でもあります。 

ひとはこれからは自由に何でもできるという解放感を味わいます。

 

また、成人期後期は、生き方に個人差が大きく反映される時期です。

 

健康について言えば、90歳になっても身体と気力の両面で元気な方もいれば、成人期後期の早い段階でめっきり衰える方もいます。

仕事を継続しているひととそうでないひと、多彩な趣味を持っているひととそうでないひと、友人知人関係の広いひとと狭いひと、ご夫婦で共通の趣味がある場合とそうでない場合、経済的に余裕がある方と無い方、等々まさに千差万別です。

 

成人期後期はまさにひとそれぞれの個人差や多様性が生き方におおきく反映される時期なのです。

 

成人期後期の発達課題  

成人期後期の課題は「①健康に、②社会との接点を持ちながら、そして、③自分らしい人生の仕上げをすること」でしょう。

 

人生の終焉に向け、ひとの肉体や気力は否が応でも衰えていきます。自分自身のためにも、周りのひとのためにも、運動や食事に気をつけながら「健康」に生きるよう努めることはこの時期のたいせつな課題のひとつです。

  

次にたいせつなのは「社会との接点」です。

この時期、特に定年退職した男性は仕事という社会との強制的な接点を失い、どうしても他者や社会とのつながりが希薄になりがちです。

社会との接点が少なくなり外出する頻度落ちてくると、体力や知力・好奇心なども衰えてきます。

また、ひとは社会的動物です。他者とのコミュニケーションを通じて存在感や幸福感・満足感を感じます。コミュニケーションが減ってくると生きる喜びを感じることができなくなります。

 

老人ホームでお年寄りのお話を聴く傾聴のボランティアをしていますと、ご老人は自分のお話を熱心に聴いてくれるひとがいることによってほんとうに元気になられます。

ターミナルケアの研究で有名なキュープラロスさんが言っている通り、ひとはコミュニケーションを通じて生きる気持ちを取り戻すことができます。

 

ですから、肉体的な健康だけではなく、仕事や趣味や地域活動などで社会との接点をたいせつにして社会的にも健康であるよう努力することも成人期後期のたいせつな課題といえます。

 

そして3番目は、「自分らしい人生の仕上げ」をすることです。

しかし、自分らしい人生の仕上げといっても、簡単なようで難しいですね。

 

これまで仕事や子育てに忙しく生きてきたひとたちにとってポカッと空洞があいたようなこの時期、いろいろな思いが浮かんでくると思います。 

自分はどんな人生を送ってきたのか?

何のために生きてきたのか?

本当にしたかったことは何なのか? 

これまでの人生は自分らしい人生だったろうか?

残された人生をどう生きるべきなのか? 

 

それらの思いに自分なりの決着をつけることが3番目の課題になるのではないでしょうか。

 

多くのひとはこの時期「人生の仕上げ」の方に向かいます。

例えば、ご夫婦でなかなか行けなかった海外旅行をする、趣味の絵画や音楽の道を深める、あるいは家族やお孫さんと過ごす時間を楽しむ、などがそれに当たるのでしょう。

それもひとつの幸せな人生といえます。

 

しかし、「自分らしさ」の方に焦点をあてるとどうなるでしょうか。

 

これまでの人生に「自分らしく良く生きてきたな!」と感じられる方はその仕上げに入ることでしょう。あるいは「生涯現役」を再確認するかもしれません。

 

しかし、自分らしい人生を送ってこなかったことに後悔を感じるひともいると思います。あるいは、まだ何かがこころの中で燻っていて「やり遂げた感」「充実感」がない方。

そうした方の中には、この時期に過去からの延長線ではない「まったく新しい人生のスタート」を切るひとが出てくるかもしれません。

 

例えば、自分が本当にやりたかった新しい「仕事」をはじめる、新しく会社を作る、新しい土地に移る、学生時代に戻り新たな研究を始める、再婚して新しい家庭を築く、離婚して人生をやり直す、などがそれに当たります。

 

寿命が延びたおかげで、体力と気力が残っている成人期後期の比較的早い時期であれば、再スタートしても人生の終焉までには充分間に合います。個人差はありますが、気力さえあれば80歳ぐらいまで頑張れるのではないでしょうか。

 

百花繚乱

人生の仕上げをするひと、自分らしさを追求してやり直すひと!

 

あれは正しいとか、これは正しくないとかいう話ではないと思います。 成人期後期の生き方は「百人百様」、「百花繚乱」、ひとそれぞれです。

 

人生の終わりに過去を振り返って「人生を良く生きてきたな」 と思えるように残された成人期後期を過ごす、その気持ちがたいせつなのではないかと思います。 

 

 

生涯発達の結びに代えて:老人期のこと

 

近年の平均寿命の延びを考慮すると、成人期後期をさらに2つに分けて後半を「老人期」と捉えたほうがいいのではないかとお考えの方もいらっしゃると思います。

 

仮に老人期という発達段階を設けるとすれば、例えば、ある程度以上の援助や介護がないと生活することが難しい「支えられるべき高齢者」の方々から主として構成される発達段階と位置づけることが考えられます。

 

内閣府による意識調査によれば、「支えられるべき高齢者」については世間では「80歳以上」と考えている人の割合が一番多いようです。

 

しかし、実際に何歳からが支えられるべき高齢者か?と問われると、年齢で区切るのはたいへん難しいのではないでしょうか。それはこの年齢層の人々の場合、個人差が極めて大きいからです。

60歳で支援が必要な方もいれば、逆に90歳でも元気に自活している方もいます。また、家族構成や生活状況も多種多様です。従って、年齢をもって一律に成人期後期(狭義)と老人期というように2つの発達段階としてわけて考えるのは、その意図はわかるとしても実際問題としては難しいのではないかというのがわたしの考えです。

 

以上