急がれる精神障害者雇用の義務化

 

日本でも遅ればせながら、ここ数年公的な責任のもと精神障害者の政策が進み始めたのはたいへん喜ばしいことだと思います。精神障害者のメンタルケアと就業支援に係わる者として、まだまだ端緒についたところとはいえ未来に光明が見えたように感じます。

“青いそら”

カウンセラー

干場 進


1. 障害者政策の現状

 

まず日本における障害者政策の現状について概観することから始めましょう。

 

日本における障害者の総数

身体障害者             393.7万人

知的障害者              74.1万人

精神障害者             320.1万人

合 計                     787.9万人 

出所:厚生労働省職業安定局 障害者雇用対策課 平成23年)

 

民間企業において雇用されている障害者数(平成2461日現在)

身体障害者             291,013           (対前年比2.3%増)

知的障害者              74,743            (対前年比8.7%増)

精神障害者              16,607            (対前年比27.5%増)

合 計                     382,363

(出所:厚生労働省平成24年障害者雇用状況の集計結果)

(補足:身体障害者と知的障害者については雇用が義務化されている。精神障害者は未済。)

 

法制面

平成23年の障害者基本法改正、平成24年の障害者雇用促進法改正、同年の障害者差別解消法成立等により、日本においてもようやく「障害者の基本的人権の尊重」が確立されました。現在「障害者権利条約」(注)の批准に向けて準備が進められている。

(注:2006年に国連で採択された同条約は137カ国と欧州連合によって批准されており、今や国際的な潮流)

 

政策面

下記①および②の障害者雇用政策の実施が予定されている。

    法定雇用率の引き上げ(現行1.8%→平成254月から2.0%)

    障害者雇用納付金制度の対象企業の拡大(現行200人超の企業→274月から100人超)

但し、精神障害者の雇用義務化については、民間企業側の受け入れ準備が出来ていないという理由で事実上平成304月まで棚上げされた。 

 

 

2. 遅れている精神障害者への支援

 

以上の概観から見て取れるのは、障害者全体に対する支援政策は徐々に実行に移されつつあるが、その中の精神障害者を対象とする政策については、具体化は未だしというのが現状です。

 

常日頃精神的な障害を抱えている方と接していて痛切に感じるのは、日本には精神障害者の方の行き場がないことです。

精神障害者政策の立ち遅れはその理由の一つですが、より基本的な問題として、日本国民全体の精神障害者に対する理解が遅々として進んでいないことがあるのではないかと思います。

 

「わが国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるのものというべし」という名言があります(呉秀三、1918年)。

日本には精神障害を理解しようとしない、理解しない、あるいは理解しても臭いものに蓋をしようとするなどの傾向があるのではないかと感じます。 

 

「うちの子はやる気がない」、「またサボっている」などと精神障害をかかえる子を理解しない親は珍しくありません。子供の方は、親に言ってもどうせ理解してくれないからと徐々に自閉症スペクトラムや統合失調症へと自らを追い込んでいきます。

 

モラトリアム期間にある学生さんの中には自分が精神的障害を抱えていることに気づいていない方がかなりいます。また病識があったとしても、それをひた隠しにして就職活動を続ける学生さんもいます。自分の精神障害をオープンにすると就職そのものができないという社会の壁があるからです。しかし、社会人になればそれまで猶予されてきた障害は否応なく表面化しますから、最終的な結果の多くは不幸です。 

 

ですから、精神障害をオープンにして、できるだけ多くの精神障害者の方が援助付き雇用(supported employment)の機会を得られるような社会に変えていくことがどうしても必要です。政策当局の方には、一刻も早く精神障害者の雇用を義務化していただきたいと思います。 

 

エゴノキの花
エゴノキの花

3. 脱施設化する精神障害者の治療

 

1980年代から先進諸国では、精神障害者の治療について急速に脱施設化が進み、できる限り精神障害者が地域で生活し、働くことができるような形の支援を発展させています。

 

それは第1に、閉鎖的で画一的な施設や病院などの環境では、精神障害者のリカバリーは実現できないこと。生活と労働は治療と一体不可分のものであって、失われた地域社会との繋がりを取り戻し、隔離された状況から地域社会へ回帰することはリカバリーへの必須条件であるとの認識が広がったのです。

 

第2に、リカバリーは本人の意志と主体性なくしてありえないことです。障害者に対し一人の基本的人権を有する人間として敬意を払い、その内なる声に耳を傾けた瞬間においてのみ本人の意欲と回復力が息づき甦るのだと思います。脱施設化とともに起こってきた当事者中心主義は、温情主義的な支援システムの中で押しつぶされてきた当事者の声に社会の気づきを換気するものといえるでしょう。 

 

精神障害者も自分らしい人生を生きたい、そして仕事をし、キャリアを積んで行きたいと願っており、またそうする権利があります。私たちは地域社会全体としてそれを支えていかなければなりません。

 

しかし、精神障害の難しいところは、「ひとりひとりがとても違う」ことです。民間企業が精神障害者の受け入れを躊躇しているのは、精神障害者を正しく理解し必要な支援をするのは決して容易なことではなく、支援する側に相当の専門的な知識と経験が求められるからです。

 

地域社会も企業組織も、専門的な知識を有する治療者と支援専門家だけから成るわけではありません。治療者や支援専門家だけではなく、地域社会や企業組織の全ての人が精神障害についての知識を学び、理解を深めていくこと以外に根本的な解決策はありません。今日まさに日本国民全体の姿勢が問われていると言っても過言ではないように思われのですが、言い過ぎでしょうか。

 

 

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