学習理論とカウンセリング

試行錯誤の学習、洞察学習、脳神経科学の学習理論、そしてカウンセリングの4つの流れ


◆ 試行錯誤の学習理論

 

わたしたちは、「こうやったら上手くいった」、「ああやったら失敗した」、といった自分または他者の成功失敗経験から学んでいます。 これを試行錯誤の学習といいます。

 

心理学の分野では、有名なパブロフの犬の古典的条件付け実験や、ソーンダイクの試行錯誤や、スキナーの問題箱実験によるオペラント条件付けなどの刺激(S)ー反応(R)研究から発達してきた行動科学の学習理論です。

  

わたしたちは失敗から多くのことを学んでいます。失敗や錯誤というとマイナスのイメージですが、学ぶ姿勢さえあればとても「前向き」でとても有力な学習方法です。 

 「 失敗は成功のもと!」 はまさに至言ということができます。

 

行動科学では、従来観察することが可能な行動だけを研究の対象としてきました。

しかし、第三世代の認知行動療法では、ひとが発言したり考えたりすることも「言語を使った行動」とし研究対象にします。このように行動を言語行動を含めた広義に解釈するのを徹底的行動主義とよび、従来の考え方を方法論的行動主義とよんで区別しています。

 

 

◆ 洞察学習(ひらめき学習)

 

ところが、私たち人間にはある日突然ひらめいて答えが浮かぶ「あっ、そうか!」現象があります。

何故かは説明できないけれども「ある日突然悟りを得た!」「ある日突然わかった!」というひらめきによる学習です。

 

試行錯誤の学習理論への反論として、ゲシュタルト心理学者のケーラーが洞察による学習の存在を指摘しました。  

現代心理学入門(川島書店)によれば「そうした人間の認知構造が突然変化するような現象、試行錯誤によらない知識の再体制化を、洞察学習とよぶ」とあります。

 

この「ひらめき」や「気づき(Awareness)」による洞察学習は類人猿と人間だけにに見られる現象とされています。

 

◆ 脳神経科学の学習理論

 

21世紀に入ってっから脳神経科学や神経生理学の進歩には目を見張るものがあります。学習についても、脳神経科学や神経生理学の最新の知見にもとづく新たな視点からの学習理論が提唱されています。

ここでは、フランスの神経科学者スタニスラス・ドゥアンヌが提唱した「学習の四本柱」 をご紹介します。ドゥアンヌは、学習は四つの柱によって促進されるとしました。 

 

1.注意:

注意を向ける対象を選択し、情報処理の制御系を増幅することで学習が促進されます。

 

2.能動的関与:

情報への能動的関与(能動的取り組み)が学習効果を上げます。当たりまえのことですが、受け身の姿勢では学習効果が上がりません。

能動的関与の土台の一つに好奇心と呼ばれる脳のアルゴリズムがあります。好奇心というアルゴリズムには、新しい情報に反応し、将来の情報獲得を知らせる機能があります。私たちの脳は、新奇な情報を得られると予想するだけでドーパミン作動性ニューロンの回路が起動され、喜び(一種の報酬)が得られるようになっているのです。

好奇心を持つということは、知りたいということであり、自分が何かをまだ知らないということを知っているということです。つまり、メタ認知のスキルが、好奇心のアルゴリズムにおいて中心的な役割を果たしています。ということは、メタ認知の能力を高め、メタ認知的判断をより肯定的にすることで、好奇心を高め、さらには能動的関与を強化することができる可能性があります。


3.誤りフィードバック:

脳が学習するのは、脳が記憶にもとづいて予測することと、実際に受け取ることの間のずれ(差異、誤差信号)を知覚した場合に限られます。つまり、意外性がないと学習もない。ずれを知覚したときに、そのずれについての詳細なフィードバックを与えることで、学習(脳の既存モデルの書き換え)を促進することができます。

試行錯誤学習でいえば、失敗したときにはキチンと正解とその理由をフィードバックすることが学習を促進する上でとても大切になります。


4.定着:

学習の間隔を空け、訓練を繰り返すことで学習内容は定着します。定着とは、ゆっくりとした、意識的でつっかえながらの処理から、高速で、無意識の、自動的な熟練に移行することです。定着には睡眠も一役買っています。

 

学習の四本柱の理論は、試行錯誤の学習や洞察学習と対立するものというよりは、両者を科学的・実証的なデータにもとづいて脳のプロセス順に整理し、統合しようとする試みの素晴らしい成果のひとつだと私は考えています。

 

(上記1~4は、ドゥアンヌ著「脳はこうして学ぶ」からの引用ですが、説明部分は私の理解に基づいて修正してあります)


◆カウンセリングの4つの流れ

 

試行錯誤、洞察学習、学習の四本柱のどれを重視しているかという基準で大雑把にわけると、カウンセリングの流れは以下の4つに分けることができます。

 

(1)無意識を重視し、過去を分析するアプローチ(精神分析論)

(2)試行錯誤学習を実践するアプローチ(認知行動論)

(3)洞察学習による気づきを重視するアプローチ(人間性心理学、ゲシュタルト心理学)

(4)メタ認知のスキルを土台とするアプローチ(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)

 

(1)精神分析論(精神力動論)

リビドーや夢分析で有名なフロイトは「人間の無意識」に注目したはじめて精神分析家です。精神分析論はその後の臨床家に大きな影響を与えました。

日本ではまだ健在ですが、米国では非科学的ということで精神分析論は徐々に信頼を失いつつあるといわれています。

フロイトの弟子として学び、後に離反した心理学者として個人心理学のアドラーと分析心理学のユングが有名です。広い意味ではミンデルのプロセスワーク もこの流れに属するようにように思います。

 

(2)認知行動論(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)

試行錯誤の学習を重視する流れです。行動分析学および行動療法として発達し、後者はのちにベックらが提唱した認知療法も取り入れて、認知行動論というおおきな流れになりました。

反復的な学習を通じて不適応を軽減していく行動科学的なアプローチと、認知の内容を修正していく情報システム的アプローチの組み合わせです。今日、エビデンスベイストのこころの病の治療法として広く普及しています。 

 

(3)人間性心理学

マズローが唱えた人間としての自己実現や自己超越をめざすアプローチです。洞察学習による気づき(Awareness)と成長を重視します。ひとをホリスティックな全体としてとらえ、人間は気づきと成長を通じて病的症状をを克服していくというのが人間性心理学の考え方です。
ゲシュタルト療法、フォーカシング、エンカウンターグループ、ブリーフセラピー、などがこの流れに属します。

心理療法ではありませんが、コーチングも基本的には洞察学習を重視する手法です。

 

(4)アクセプタンス&コミットメント・セラピー(略称ACT、詳しくはこちらで)

個人的意見ですが、ACTの脱フュージョン、文脈としての自己、マインドフルネス瞑想(メタ認知能力)、「いま、ここ」へのフォーカス、価値の自覚、コミットメントなどが、ドゥアンヌの学習の四本柱の考え方といくつかの類似点があります。特に、ACTプロセスが、脱フュージョンとメタ認知を促進すること、および「価値」という脳の報酬基準に焦点を当てていることなどに共通性を感じます。この辺は、これからもう少し勉強していきたいと思っています。

なお、ACT以外に、メタ認知に焦点を当てるものとしてはマインドフルネス認知療法、メタ認知療法などがあります。