第三世代の認知行動療法ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)


人生に悩みごとはつきものです。この悩みごとやあの厄介ごとが片付いたら、その時に自分らしい、素晴らしい人生が始まるのだと、もしあなたが思っていらっしゃるとしたら、それはおそらく間違いです。なぜなら、悩みごとや厄介ごとは次から次へとやってくるのが人生だからです。

 

もし人生を自分らしい、楽しく、豊かなものにしたいのなら、その悩みごとや厄介ごとを片づけていくことそのものを楽しく、自分らしくやっていくしかありません。それ以外の方法はないと思いましょう。 

もし、厄介ごとを楽しみながら片づけることが可能なら、それは朗報!といってもいいのではないでしょうか。なぜなら、私たちは待つ必要はないからです。私たちはいますぐにでも、明日からでも、楽しくて、自分らしくて、素晴らしい人生を始めることができるのです。

 

第三世代の認知行動療法ACT

 

ACTははまさにそうした考え方のひとつです。悩みごとや厄介ごとを片づけなくても、いまからでも、明日からでも、私たちは幸せになるための行動を起こせるのです。そうしたACTの特徴は以下の通りです。

  1. ACTは心理的な悩み、病的症状を治療しようとはしません。
  2. ACTは、その代わりに、その人がご自身の価値(観)に沿ってマインドフル(後記)に生きていくことができるよう支援します。
  3. 自身の価値に沿って生きることで、病的症状は、その付随効果として軽減されていくというふうに考えます。

ACTの全体像

 

下図は、ACTのヘキサフレックスとよばれるもので、ACTのプロセスの

全体像を示しています。

  出典:”Acceptance & Commitment Therapy, 2nd edition”, by S.C. Hayes et al.

ACTにおける価値とは何でしょうか? 
  • 価値とは、自分は人生でこれをやりたい、これを大切にしたい、いつもこんなふうに行動したい、ということを「言葉にしたもの」です。
  • 私たちの心の一番奥底にある「願い」であり、日々の生活において私たちを導き行動へと動機づける「軸」となるもの。
  • ACTでいう価値とは、毎日の生活の中で実行できるもの。

つまり、ACTにおける価値とは、何らかの形で自身の行動や実行につながるものと言うことができます。

 

例えば、「愛すること」は自分の行動につながりますから価値です。

では、「愛されること」は何でしょうか?

結論から言うと、愛されるというのは目標です。この場合、愛するという行動をとるのは他者ですから、他者にとっては価値になりますが、愛される人にとっては自分の行動ではありませんから価値にはならないのです。

また、単なる「愛」は自分の行動にも、他者の行動にもつながらないので価値でも目標でもないことになります。

 

マインドフルネス

 

マインドフルネスとは、柔軟に、オープンに、そして好奇心を持って何かに注意を向けることです。

 

ACTでは、柔軟に、オープンに、そして好奇心を持って自分の心の働き(思考や感情や記憶が浮かび上がってくること)に注意を向ける練習、すなわちマインドフルネスの練習をします。その際にに、もっともよく使われるのが「呼吸による瞑想」という方法です。

 

リラックスして、うっすら目を閉じて、ゆっくり繰り返される自身の呼吸に注意を向けていると、思考や感情や記憶といった心の動きが、意識しなくとも自然に浮かび上がっては消え、浮かび上がっては消えしていくのが分かります。そうした無意識の心に働きに注意を向けることをマインドフルネスと、また、心の働きを観察している自分のことを「観察する自己」と呼びます。

 

なぜこんな練習をするのかといいますと、それは浮かび上がってくる思考や感情にいちいち振り回されたり、支配されたりしていると、自身の価値に基づく行動をとれなくなってしまうからです。

 

文脈としての自己

 

ACTの素晴らしさの秘密はは、実はこの「文脈としての自己」の概念にあるのではないかと、私は思っています。

文脈としての自己とは、自己についての概念ではありません。この場合、焦点は自己にではなく、むしろ文脈の方に当てられていると私は解釈しています。マインドフルネスを通じて自分の心の動きに、柔軟で、優しくて、穏やかな意識を向けているときの自己が存在する空間/スペースのことを指します。

 

 

ラス・ハリスはここから先は精神世界の領域に入るからといって、説明を避けています。

ですが、そこは興味津々の世界です。その空間とはどんな空間でしょうか? そこには何があるのでしょうか? そこにはだれがいるのでしょうか? 

 

心に浮かんでくるのは、まず、ユング心理学でいう普遍的無意識の空間です。心の働き方には人類共通の基盤があるという空間です。

次に、思い浮かべるのはアーノルド・ミンデルの言う「ドリームランド」の世界です。その世界には自他の区別がありません。自分とあなたは同じなのです。

 

ACTでは、人は自由に価値を選ぶことができます。選択について何らの制約もありません。しかし、皆が自己中心的な価値を選んだら、この社会はどうなるのだろう? ひどいことになるのではないか?という疑問が、ACTを学び始めたときの私にはありました。

 

しかし、文脈としての自己を、普遍的無意識の空間、あるいはドリームランドの世界と同様な空間として理解したとき、その不安はまったくの杞憂にすぎないことが分かりました。なぜなら、マインドフルネスを通じて、人類はみな同じ存在であるという空間があることを体験したことのある人間が自己中心的な価値を選ぶはずがないからです。


わたし自身は、心理カウンセリングの際、主としてACT、認知療法、行動療法、マインドフルネス、メタ認知療法、そしてブリーフセラピーの6つを適宜組み合わせて臨んでいます。理由は、敢えて言えば、たまたまそれらが私にとって、使いやすく、しっくりくる方法だったからです。

 

心理療法には、他にも、来談者中心療法、催眠療法、プロセスワーク、精神力動的療法、ユング心理学(私はここから入りました)などがあります。また作業療法、運動療法、ヨガ、音楽や色彩を用いた療法などもあります。私はすべての方法に、それなりの良さと限界があると思っています。ですから、カウンセラーはできるだけ沢山の引き出しを持っているのがいいのではないかと個人的には思います。

 

また、カウンセラーは、心理療法や精神医学だけではなく、精神的障害を併発しやすい病気全般、知的および身体障害、仕事やキャリア、福祉や介護、あるいは教育や養育についての知識や経験も併せ持っていることが望まれます。なぜなら、相談に来られるクライエントが抱えていらっしゃる悩みや問題はひとつの要因から生じているわけではなく、いろいろな要因が複雑に絡み合って生じているからです。

 

カウンセリングは、こころを扱うだけに、幅広くかつ深い知識が求められるたいへん重たい仕事です。しかし、それだけにやりがいもある仕事といえるのではないかと思っております。