新世代の認知行動療法 ACT

“青いそら” 管理人


 

行動主義の心理療法における3つの波

 

第1の波は、1950年代および1960年代に発展した行動療法です。はっきり観察できる行動を対象とし、論理実証的な科学を目指しました。オペラントとレスポンデント条件付けの原理を応用し、主として人の行動を変化させることに焦点を当てました。

 

1970年代に押し寄せてきた第2の波は、1960年代はじめにアーロン・T・ベックなどによって提唱された認知療法を取り入れた認知行動療法(CBT)です。不合理で、ネガティブで、機能しない、硬直的な思考に焦点をあてて、より合理的で、肯定的で、機能的で、現実的な思考に変換するすることに重点を置きました。

 

1990年代にはいってマインドフルネスを重視する第3の波が広がりました。切っ掛けとなったのは1990年に出版されたJ.カバットジン著「マインドフルネスストレス低減法、原題“Full Catastrophe Living"」です。

 

ここでとりあげるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)をはじめとして、マインドフルネス認知療法(MBCT)や弁証法的行動療法(DBT)などがこの波に含まれます。

いずれも、従来の行動療法に加えて、アクセプタンスとマインドフルネスに重点を置いているのが共通の特徴です。

 

 

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)

 

「今ここに存在し、こころを開き、大切だと思うことを実行する」

 

ACTはその名のとおり、アクセプタンス(受け入れること)およびコミットメント(行動をコミットすること)を重視する心理療法です。

 

ACTモデルの中心的なメッセージは以下の二つです。

(1)人生がもたらす避けられない苦しみ、自分のコントロールが及ばない苦しみは受け入れよう。(Acceptance)

(2)価値に沿い、人生を充実した意義あるものするために行動を起こすことをコミットしよう。(Commitment)

 

言い換えれば、心配や不安や恐怖をコントロールしたり押さえ込もうとしてエネルギーを浪費するのではなく、そうしたつらい感情と上手につきあいながら、どうしたらより豊かな人生を送ることができるかという前向きの活動にエネルギーを使おうとします。

  

ACTの特徴

 

第一に、うつや不安などの病的症状を治療するのではなく、あるがままを受け入れていこうとする点です。

つらい思考や感情に効果的に対処し、そこから受ける影響が小さくてすむようにします。

 

そのために、『今、この瞬間』にマインドフル(注意を払っている状態)であること重視します。

思考を事実と固く信じてしまいう状態(認知的フュージョン)や不安な状況を避ける行動(体験の回避)などの硬直的な心理状態や行動様態を、文脈を変化させることによって柔軟にしていきます。

言換えると、心理的な柔軟性(Psychological flexibility)を向上させます。

 

なお、この心理的な柔軟性を促進するための新しいフレームワークとして、ACTマトリックスが登場しています。 

   

第二に、クライエントが価値を明らかにできるよう協力を惜しまない点です。そして、クライエントが、その価値に導かれ、動機づけられながら、目標を設定し、人生を豊かにするために行動を起こしていくのを支援します。

 

第三に、マインドフルネス瞑想法や呼吸法、あるいはメタファーやエクササイズなどを頻繁に活用します。目標に向けて具体的な行動を起こすよう積極的に促します。

徹底的な行動主義に立脚し、認知面よりは、行動面(行動と結果の関係)をより重視する認知行動療法といえます。

 

尚、マインドフルネス瞑想法はヨーガや仏教の手法を取り入れた実践的な治療法です。哲学や宗教にまでおよぶ広いテーマなので、ここでは触れるだけにとどめ、別の機会に詳しく検討したいと思います。

 

 

豊かで有意義な人生

 

上述の通り、ACTは、「クライエントが自分自身にとってほんとうに意味のあること ー 価値 ー に沿って行動し、豊かで有意義な人生を送れるようになること」を最終的な目標としています。

ACTにおける「価値」は、問題を如何に解消するかから「いかに生きるか」ということへ方向転換するために用いられます。

 

うつや不安や恐怖で苦しむ方にとって、苦しさや病的な症状が緩和されることはとてもたいせつです。  

しかし、病的症状が改善したとしても、多くの場合、クライエントにはその後に更に解決しなければならない仕事や生活に係わるさまざまな困難が待ち受けています。

 

うつや不安や恐怖で悩んでいたひとびとも、健常な人々と同じように、「自分らしい豊かで有意義な人生」を目差して生きていかなければなりません。

  

その意味で、「いかに生きるか」というひとまわり大きなテーマに挑み、クライエントの今後の人生の指針としての価値体系(下注)を明確にし、その価値に沿った行動をとるよう促していくACTのアプローチはたいへん魅力的です

 

 

 

注:価値体系については評定尺度VLQ(Valued Living Questionaire) をご参照

注2:The ACT MATRIX by Kevin L. Polk & Benjamin Schoendorff

 

ACTについての参考文献

・新世代の認知行動療法、熊野宏昭著

・よくわかるACT、ラス・ハリス著、武藤 崇監訳

・ACTハンドブック、武藤 崇編

・The ACT MATRIX (上記)

 

 

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