成人期前期の発達課題


夢中になって人生の坂を登っていく時期


成人期前期

 

諸説ありますが、一般的には25歳から45歳ぐらいまでの期間をさします。

 

青年期後期はひとりの社会人として実社会に船出していく過程でしたが、ひとはこの時期、青年期の終わりをはっきり自覚します。

仕事や恋愛・結婚などの出来事を通じておとなへの仲間入りを果たし、社会人としてさらに成長していきます。

自分自身の充実した職業生活や家庭生活を運営していこうと努力します。

 

 

坂を上る時期

 

成人期前期のうちの前半、25歳から30歳代は成人としての社会的地位を固めつつ、自身の人生の目標や夢の実現にむかって近づいていく上り坂の時期です。

 

職場や社会の知識やノーハウなどのハードスキルを修得するとともに、後半に近づくにつれ対人関係スキルやマネジメントスキルのようなソフトスキルも身につけていきます。

色々しんどいことはあるでしょうが、上り坂を無我夢中で登っているという感じです。

 

下り坂を予感する時期

 

しかし、40歳代にはいると多くのひとはいよいよ人生の頂点に近づきます。

成人期前期の後半のこの時期は、その後の下り坂を予感する時期でもあります。たとえば、職業人としての限界が見えてきたり、子供が徐々に親離れしてきたりして、空虚感におそわれる時期でもあります。

 

 

成人期前期の発達課題

 

では、成人期前期の発達課題はなんでしょうか。 

以下の二つがたいせつだと思います。

 

(1)自己アイデンティティー(self identity)を社会人としての実生活の中で修正し、再構築して、更に完成させていくこと、

 

(2) 夫婦、家族、親友、職場の上司・部下などの重要な関係にあるひととの親密な関係(intimate relationship, interpersonal relationship)と信頼関係を築き上げること

 

 

「自分らしさ」の追求と自己アイデンティティー

 

成人期前期における自分らしさの追求と自己アイデンティティーとの関係について、気をつけなくてはならないことがあります。

それは、1980年代以降、グローバライゼーションの進展にともない日本でもひとの価値観や人生観が多様化し、「ありたい自分」をもっと追求したい、「個性や自分らしさ」をよりたいせつにしたい、という考え方やライフスタイルが広がってきたことと関係しています。

 

わたしたちは青年時代から引き継いできた「ありたい自分、自分らしさ」を、ひとりの社会人として実社会のなかで更に希求し、実現しようと努力していきます。そのことは決して悪いことではありませんし、個人的には、むしろ積極的に追求すべき事柄だろうと思っています。

 

しかし、実際の職業生活や家庭生活のなかでは、そうして自分らしさを追求していくと、どうしても思い通りにならないことや挫折することが多々出てきます。

多くの方はそうした挫折や失敗体験(あるいはたまの成功体験)を通じて、他者への配慮の大切さや人が社会的な存在であることを学んだり、壁にぶつかってありたい自分像を修正したり、信念や価値観を修正したり再構築したりしながらさらに自己アイデンティティーを完成させていきます。

 

もちろん、当初からの自己アイデンティティーを貫徹し「ありたい自分、自分らしさ」を求めて思い切ってキャリアを変更したり、新天地を求め海外に飛翔していく人たちもいます。たいへん素晴らしいことだと思います。(拍手です!)

 

気をつけなければならないのは、自分らしさを追求し挫折する中で、自己中心の世界に閉じこもり、社会から孤立してしまうことです。

 

それは、自己アイデンティティーという言葉が、個人主義の文化・哲学を信奉する米国から来たこともあって、個人主義のイメージと混ざり合って「自己中心主義」と混同されやすいことから来ているのかもしれません。

(もっとも、欧州を中心にポストモダニズムの動きが起こってから、また米国ではオバマ大統領の世紀にはいってから、個人主義も少し変貌してきたように感じられますが、この点はまた別の機会に)

 

自己アイデンティティーの獲得とは、人が、権利と義務を自覚したひとりの自立した社会人として社会に定着し、更に社会の構成員の一人として次の発達課題である親密性づくりに取り組むための準備段階であって、決して社会から孤立するためのものではないことをご理解いただければ幸いです。

 

並行して進む親密性づくり

 

自己アイデンティティーと親密性づくりとの関係では、一般的には自己アイデンティティーの獲得のほうが親密性づくりよりわずかに先行するといわれます。

しかし、実際には両者は相互に影響しながら、並行して少しづつ進んでいきます。

 

特に女性の場合には、友達との深い付き合い方が中学から高校時代に急増するというかなり明確な研究結果があります。 他方、男性は中学、高校、大学と深い付き合い方が徐々に増えていく傾向があり、この点では男女差が顕著です。

自己アイデンティティーの形成と親密性づくりが、女性の場合にはほぼ並行して進んでいくことを示しています。

 

そして、親密性づくりが発達課題として本格的に登場してくるのは、例外はありますが、やはり人が結婚適齢期にはいって結婚と家族づくりを意識するようになってからということになります。

 

 

変化する人間関係

 

成人期前期では、対人関係もおおきく変化します。

異性との間で愛情が育まれ、結婚しやがて子供が生まれ、家庭生活が更にたいせつになってくると同時に、職業面でも責任が重くなり、上司や部下との関係がより複雑になってきます。

 

関係性の変化につれてそれぞれが果たすべき役割も変化します。 

家庭生活と職業生活とのバランスや調和、あるいは親として子供にどう接したらいいか(親意識の発芽)などの役割の変化に上手く対応していかなければなりません。

 

そうした役割の変化にうまく対応するために、配偶者や子供などの身近で重要な他者、あるいは職場の上司や部下との親密な関係を築き上げる力(親密性づくり)がたいせつになってきます。