21世紀のリーダーシップ理論
グローバライゼーションの進展にともない、リーダーシップの概念や求められるリーダーシップ・スタイルも必然的に変化し、多様化します。21世紀の時代の変化に耐えうるリーダーシップ思想や理論があるとすればそれは何なのでしょうか? ここでは企業というフィールドにおける7つのリーダーシップ論に絞って考えてみましょう。
専制君主型、ヒーロー型リーダーシップ
いわゆるトップダウン型のリーダーシップスタイルの代表格です。
専制君主型やヒーロー型のリーダーシップは、人を動機づけて動かすリーダーシップとは相いれないものという考え方があります。しかし現実の社会をみると、社長の指示は絶対という企業や、そこまで極端ではないもののトップダウン型のマネジメントスタイルをとる企業で、業績や企業風土も悪くないという例は結構あります。もしトップがすべてに秀でたスーパーマンのような人間であったとしたら、昔風にいうと善政をひく国王であったとしたら、トップダウン型は意外に効率的なリーダーシップかもしれません。
ただし、今日の多様で変化の速いビジネス環境のもとで、そういうスーパーマンのような、気はやさしくて力持ちの万能選手を期待することがはたして現実的かどうかというと、やや難があるような気がしますが、、。
変革型リーダーシップ
J. コッターやN. ティシーが1980年代に提唱した理論です。これからは変革の時代であるから求められるリーダーシップは変革型リーダシップであるとし、リーダーの資質面を探求しました。
変革をリードするリーダには、①高いエネルギー、②ビジョン、そして③対人能力、という3つの資質が必要といっています。
発表されたの1980年代ですが、その後のグローバル化の進展に伴いまさにJ. W. ガードナーが指摘した通り「不断の変化と変革」が求められる時代になっています。変化と変革を志向する変革型リーダーシップは、まさしく、時代の流れを先取りしたリーダシップ論といえるのではないかと思います。
このリーダシップスタイルのリスクは、もっぱらトップに立つリーダーがどのくらい優秀かによって企業全体の業績が大きく左右されることでしょう。また、組織の統率面からみると、専制君主型やヒーロー型リーダーシップと同じく、どちらかというとトップダウン型です。変革型リーダーの経営姿勢が、もし現状維持あるいは懐古主義に傾くと専制君主型やヒーロー型とそれ程大きな差はなくなるように思います。
状況対応リーダーシップ
ポール・ハーシーとケン・ブランチャード1970年代に提唱した理論で、その後ブランチャードが改良を重ねて今日に至っています。
すべての状況に適合する唯一絶対のリーダーシップ・スタイルはなく、リーダーは部下の習熟度や意欲と状況に応じて4つのリーダーシップ・スタイルを使い分けなければならないとします。
リーダにだけではなく、リードされる部下と状況に焦点を当てる点が他のリーダシップ論とのおおきな違いです。 シンプルでわかりやすく、いろいろな状況に柔軟に適用できる方法論なので、発表時期は1970年代と古いのですが今日も健在です。
ブランチャードの最新著では、リーダーは部下の性格・行動特性等に応じてどのような支援的行動をとるべきなのかについて行動主義的心理学の立場から考察しています。リーダーシップ・スタイルを状況によって使い分けなければならないとしつつも、ブランチャード自身は支援的なリーダーシップを支持しているように感じます。
アプレシアティブ・リーダーシップ
1980年代にデービッド・クーパーライダーとダイアナ・ホイットニーは、組織の価値あるものをアプレシアティブ(肯定的)な質問によって掘り起こし、組織に変化と変革をもたらす方法論として「Appreciative Inquiry(以下AI)」を提唱しました。
AIは、これまでのロジック重視の問題解決型のアプローチに代えて、組織メンバーの肯定的な感情や気持ちを重視した「対話的なアプローチ」を重視します。アプレシアティブ・リーダーは部下が本来持っている可能性や強さに着目し、肯定的な質問や、励まし勇気づけるような質問を投げかけることによって部下の力を最大限に引き出し、変化と行動へと動機づけます。
もっぱら人のポジティブ(肯定的)な感情を重視し、否定的な感情を軽視する嫌いがあるのが特徴ですが、下記のサーバント・リーダーシップと並んでこれからの多様性の時代に威力を発揮するリーダーシップ理論ではないかと思います。
サーバント・リーダーシップ
R・K・グリーンリーフが1970年に提唱したもので「リーダーたるものは、何よりもまず部下へのサーバント(Servant, 奉仕者)でなければならない」というリーダーシップ哲学です。
リーダーは、部下を力づけ育てること、さらに高度のスキルや能力を身につけて成長してもらうことを第一義に心がけなければならないとします。
サーバントリーダーは決して華々しいリーダーではありません。
しかし、今後更にグローバライゼーションが進展し、組織を構成する人々と組織を取り巻く環境がますます多様化し、その多様性から如何に創造力と活力を如何に引き出せるかが組織が生き残るための鍵を握るようになった時に力を発揮するリーダーシップのようにわたしは感じます。
というのは、サーバントという哲学そのものが本質的に以下の特徴と性格を備えているからです。
① チームワークを醸成するという考え方そのものである
② リーダーは常にチームメンバーに付加価値を提供する
③ 成果を求める前に、まず部下を巣立てなければならないという思想である
④ 信頼をもっともたいせつな価値とする
⑤ リーダー自身の成長につながる
リレーショナルリーダーシップ
最後にリレーショナルリーダーシップです。
これまでのリーダーシップ論が主としてリーダーの資質や行動特性に焦点を当て、リーダーはどういう存在であるべきかを論じるのに対し、リレーショナルリーダーシップはリーダーとメンバーのあいだで繰り返し交わされる相互作用や 対話に焦点を当てます。
そういう意味では、リレーショナルリーダーシップは従来のリーダーシップ論を否定するものではなく、リーダーとメンバーのあいだの日常の色々なやり取りや関係性を分析するためのリーダーシップ論ということもできます。
なお、リレーショナルリーダーシップについては本文をご覧ください。
まとめに代えて
今後更にグローバライゼーションが進展し、世界市場・経済・社会が複雑さを増し、変化を予測しにくくなる中で、いかに有能なリーダーといえどもひとりで全てを指揮命令するのは難しくなるでしょう。
従って、これからのリーダーは、先頭にたって部下を引っ張っていくタイプのリーダーシップではなく、チームメンバーの多様性から創造力を引出しつつ、チーム力を高めていくタイプのリーダーシップがより求められるだろうというのは今日多くの人の意見が一致するところでしょう。
では、日本ではどういうタイプのリーダーシップが適切なのでしょうか。
変革型、状況対応型、AI型、サーバント型、ヒーロー型、はたまた専制君主型?
すべてのリーダーシップ論に長所と短所があります。結論は簡単には出せません。ただひとつ私たちが注意しなければならないのは、日本と欧米との地政学的、歴史的、文化的な違いだと思います。例えば、日本は島国で均質性が高く、多様化は遅れているという大きな違いがあります。
従って、ひとつ言えるのは欧米で有効だったリーダー像やリーダーシップ論が必ずしも日本でも有効だとは限らないことです。唯一の例外はリーダーとメンバーのあいだの相互作用、対話、関係性に焦点をあるリレーションリーダーシップです。これが私たちが魅力を感じる所以かもしれません。