豊かな会話とは


 

「活発に批判する習慣は、社会の変革に欠かすことはできない。国を愛するあまり、活力に満ちた批判を遮ってしまうような国民は、自国を救うことはできない。しかし、愛のない批判、破壊力はあるが制度を育て、強化し、反省させることのできない批判もまた、国を救うことができない」

                 ジョン・W・ガードナー

 


会話のダッシュボード

 自動車のダッシュボードには図のようなスピードメーター(回転速度計)などがのっています。車のスピードが上がればその針は右に振れ、スピードが下がれば左に戻ります。針が右に振れればスピードは上がり、運転には真剣さが増します。 

 

 会話もダッシュボードと似ています。当たり障りのない日常会話をしていると思ったら、急にまじめな話になったり、それがつい熱が入って意見が対立し議論に発展したりします。メーターの針が右に振れていくときです。針が左に振れるのは、真剣な会話から、また冗談や当たり障りのない日常会話に戻るときです。

 

 会話のダッシュボードの図は、私たちの会話が、スピードメーターの針がレベルⅠからⅢのあいだを行ったり来たりするように進んでいくことを表しています。 

 

豊かな会話 

 

 私たちのいう「豊かな会話」とはレベルⅡとⅢを含む会話です。

 私たちは会話がレベルⅠにとどまっていては学びやアイディアは生まれにくく、豊かな会話にはなりません。レベルⅡの誠実な会話が続くと、少しずつお互いの意見や考え方の違いが表面化し、さまざまな意見の交流が起こります。そして意識的にブレーキを踏まないかぎり、さらにレベルⅢの真剣な会話へと進んでいきます。いよいよ意見の相違や対立が顕在化(ハッキリ)してきます。

 

 私たちは、意見の相違や対立が表面化し、さらには顕在化してくることによって、はじめて会話の豊かさが生まれると思っています。というのは、自己の意見(知識、経験、考え方など)と他者のそれとの「違い」がないところに、学び(気づき、学習、アイディア、創造など)は起こらないからです。学びとは違いを認識し、受け入れることなのです。

 

 そした学びを促すさまざまな相違を皆が共有することができれば、そして和の精神と民主主義のメカニズムを活かすことができれば、自ずと望ましい変化と変革と成長が促進され、やがて皆が共創し協働する豊かな社会が出現していくに違いないと考えます。

 

敵対へと進むリスク

 

 しかし、乗り越えなければならない壁もあります。図にもあるように、意見の相違や対立の顕在化が、考え方の共有と創造へと進むのではなく、敵対と分断へと進むリスクです。(ダッシュボードにある右向きの矢印)

 

 人間には、他の動物と同じように敵から自分を守ろうとする本能があります。脳神経科学ではこれを脳の「闘争、逃走、硬直化反応」と呼びます。山のなかで獰猛な熊に遭遇したときに、とっさに闘うか、逃げるか、それとも固まるかのいずれかの行動をとらせる脳の動物的で自動的な働きです。もしこのありがたい働きがなければ、人間はとっくに滅びていたに違いありません。

 

 厄介なのは、他者から自分のものと異なる意見が主張されると、私たちの脳はあたかも自分自身が他者から攻撃されたように感じて闘争、逃走、硬直化反応を起こしてしまうことです。この反応がひとたび起こってしまうと、好奇心や共感といったより人間的な脳の働きは停止してしまいます。その結果が敵対と分断です。この脳の反応は自動的・無意識的であり、私たちの意識の力をもってしても制御できないという問題があります。 

 

違いの共有と創造への道

 

 私たちは、容易なことではないとは思いますが、敵対と分断を避け、共生と創造への道へすすむことは可能だと思っています。詳細は別の機会にさせていただきますが、ごく大まかにいうと、少なくとも二つの方法を併用することが必要です。

 

1. 脳の闘争、逃走、硬直化反応を弱めるか、あるいは反応からの影響力を弱めること。マインドフルネス瞑想をはじめとするさまざまな方法や工夫が考えられています。

 

2. より人間的な「好奇心」と「共感する力」を強化すること。同じような意味で、「思いやり(Compassion)」とか「愛」といった言葉で表現されたりもします。

 

 好奇心、共感、思いやり、愛、それらがほんとうにたいせつなことは間違いないのですが、それを強調することだけでは解決になりません。問題は、どうすれば好奇心や共感する心を育て、強化することができるかです。私たちはその方法を探究し、実践したいと思っています。


対話の会を、来る11月13日から再開します。あなたも参加なさいませんか?

詳しくは2021/2022年度「対話の会」のご案内のページをご覧ください。

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               対話の会 幹事:干場、岩崎、岡野、加藤